みなさま、いかがお過ごしですか? 新田はソウル国際ブックフェアへ初めて足を踏み入れました。その様子を「韓国語がまったくわからない英語翻訳者」の視点でお伝えしようと思います。
英語が専門なら、フランクフルトかロンドンのブックフェアへ行くのが筋ですが、今年は、「動く翻訳者」になりたい。10月のフランクフルトの前に「頭と体を慣らす」ため、ソウル参戦。しかし、仁川からソウルまでの遠さに面食らいました。次は絶対に金浦空港を使います。
詳しい報告は、韓国語関係の方々が書かれたもののほうが参考になるので、あとのほうにリンクを貼っておきます。
来場者は20代の女性が圧倒的に多い!
入場券が前売り段階から売り切れ、いろいろ問題があったようですが、私にとっての難関は、支払いがNAVER一択だったため(韓国の携帯電話番号が要る)、海外からは買えなかったこと。幸い、映画監督をやっている知人が韓国にいて、代わりに入場券を購入してもらいました。
会場は江南にある巨大なイベント施設COEX。早めに行ったのに、開場の10時前から長蛇の列!(もっと遅い時間に行ったほうがすんなり入れることをあとで知る) 黒髪の人が圧倒的に多く、カナダから来た私には黒い波がうねっているように見えました。並んでいるのは20代くらいの女子がほとんど。この日は金曜日でしたが、大学が休みだったらしく、彼女たちは大学生だったのかも。
今年のゲスト国は台湾。入場時に、台湾の作家と作品を紹介する号外風のチラシをもらって気分がアップ。海外勢は台湾以外に、サウジアラビア、ドイツ、フランス、タイなどのブースがありました(たぶん、もっとあったはず)。台湾コーナーは「Sensibilities」がテーマだったようで、多様性、ネイチャー、先住民を扱った本がたくさん並んでいました。
個性が炸裂するブース
会場には文フリのようなコーナーも併設されていて、クリエーターたちが思い思いに自作の本やグッズを売っていました。大手出版社以外にも、地方出版社、リトルプレスが数多く出展していて、どこも個性的なディスプレイ。言葉はわからなくても、いや、わからないがゆえに、ビジュアルで各社が何を売りにしているのかがよく伝わってきました。
モレスキンのように、同じサイズで揃え、カラフルな表紙で詩集を出している出版社
和綴のような重厚感のある本だけをずらっと並べた仏教関係の出版社
韓国語のハリーポッターシリーズを出している出版社
韓国語で『赤毛のアン』を出していて、実は豆本も専門の出版社
入っただけで背筋がピシッと伸びる、人文系の老舗出版社
前の前の大統領、文在寅がやっている書店(リベラル系の若者に大人気!)
内田樹の本を翻訳ではなく、書き下ろしで出している出版社
京畿道エリアの独立系書店だけを集めた一角(地域で盛り立ててるのがいい!)
宮沢賢治の絵本を韓国語で出している出版社(版元の人が宮沢賢治のファンなのだそうです)
『アーモンド』の表紙絵を描いたクリエーター2人が出している、おしゃれなブース! 1人が顔、もう1人が体を描くと分担が決まってるとのこと。
ロシアから済州島に移住した女性イラストレーターが家族との済州島生活を綴った絵本を出しているリトルプレス(本人とパートナーのふたり出版社かも?)
美しい刺繍の栞を売っているOIMU
ハイライトは書ききれません。ハングル文字が読めないので、絵本のコーナーを重点的に回っていましたが、やはり、「韓国的」だと思う絵本に目がいきました。
詩集を並べているブースも多く、そこへ女の子たちが大挙して押しかけ、詩集を物色している姿を見ていると、やっぱり韓国は詩が盛んなのだな〜とうらやましく思いました。
全体的な写真はこちらをどうぞ(20枚載せてます)。
私が買ったものはこちら↓↓↓(いろいろ買った)
通訳してもらったり、英語で話しかけたり
1日目は韓国語の翻訳者さんたちの案内で回りました。版元や著者に聞きたいことがあるときは、通訳してもらったり、英語で直接話しかけたりもしました。あれだけ人がいるのに、みなさん、すごく丁寧に答えてくれる! 笑わせてくれたりもして、作り手のパワーもひしひしと感じました。特に地方出版社やリトルプレスの方々!! 作品や、書店(出版社)を始めた経緯に関心を示すと、上客でもない私に熱弁をふるってくれるんです。
この日は映画監督のパク・チャヌクのトークがあり、その姿を一目見ようと頑張ったのですが、人の波に押されて、これがあの『お嬢さん』や『オールド・ボーイ』を撮った人なのか〜と豆粒のような姿を拝んで帰ってきました。文学作品から脚本を書くことについて話されたようです。
2日目は、金曜日をさらに上回る混みようで、2時間で脱落。この日は単独で会場を回りました。目をつけていた絵本を購入する前に、版元に「ハングル文字が読めないから、あらすじを簡単でいいから英語で教えて」と頼んだところ、相手は英語が得意ではなく、スマホの翻訳アプリを駆使して、あらすじを説明してくれました。恐縮しきりです。お礼の気持ちを込めて絵本を2冊買いました。
翻訳の世界は英語だけじゃない
ふだんは英語の出版界だけを見ている私ですが、ソウルに来て、韓国語で書かれたもの、韓国語に訳されたものに触れ、それに携わる人たちに会ううちに、「翻訳の世界はもっと広い」のだと改めて気づかされました。しかも、その世界は活気にあふれている!
ブックフェアの一角には、「活字波動/私たちを揺るがす文学」を謳ったブースがあり、そこには、「私を揺るがした小説/詩は〜」とプロンプトが印刷された付箋が用意され、若い子たちが思い思いの作品名や一節を書き込んでは、付箋を壁にペタペタと貼り付けていました。その場で、一節が思い出せるなんてすごくないですか?
私が解することのできない言語で書かれた作品で心を揺さぶられた人がこんなにも大勢いるのに、私はそれを今日まで知らずにいたのだと思うと、今度は私の心が揺さぶられました。
人との出会いが刺激になる
ソウルに行く前から人に声をかけたり、かけられたりで、様々な出会いと再会がありました。
日本の出版社の編集者さんと、私の知り合いの映画監督さんを引き合わせ、いろんな話に花を咲かせたり、韓国語関係の方々に混ぜてもらって韓国料理に舌鼓を打ち、その場で意気投合した女性と長い休憩をとって話し込んだり、クオンの取締役の金さんに引き合わせいただいたりと、カナダから来た甲斐があったなと思えることばかりでした。
ソウルへ発つ前の東京では、「フランクフルトの前哨戦としてソウルのブックフェアに行くんだよね〜」と友人に話したところ、「実はおれもフランクフルトに行く! 現地で会おう!」と、まさかのオーバーラップ。版権を売り買いする立場の人なので、きっと予定がみっちり詰まっているはずですが、にわかに10月が楽しみになってきました。
2025年のテーマは「The Last Resort」
直訳すれば「最後の頼み」です。戦争とAIの脅威が身近に迫り、誤情報に振り回される世の中では、「最後の頼みは本でしょ、やっぱり!」ってことなのかしら。悲壮感を感じなくもないですが、中は熱気ムンムンでした。
アジアの他の国のブックフェアにも行ってみたくなりました。
2025ソウル国際ブックフェアの様子を伝える記事
音声:https://stand.fm/episodes/685cbb7215d57957f92a807a
note:前編 https://note.com/nouarukurashi/n/n00428a25d883
note:後編 https://note.com/nouarukurashi/n/nb981806c1189
以上は、実際にブックフェアでお会いしたKim Minaさんのレポートです。新聞系のウェブメディアで活躍されてきた方なので、取材力と伝える力がすごい! 音声版を是非聞いてみてください。
Bookpotters の書評!
眞鍋恵子さんが、上田早夕里著『成層圏の墓標』(光文社)を2025年7月5日発行の図書新No.3694号で書評されました。こちらでお読みいただけます。
https://note.com/yasushi_kaneko/n/nd2f2400a4307
Bookpotters の活動の場、トロントの生活情報誌「Torja(トルジャ)」では、6月号はわたくし新田享子が『別れを告げない』(ハン・ガン著、斉藤真理子訳、白水社)を、7月号は溝渕佐知さんが『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(シーグリッド・ヌーネス著、 桑原 洋子訳、早川書房)を書評しました。
Bookpotters のみなさん、Torja の書評に挑戦してみませんか? 一度しか受講していない方も歓迎です。knsbookclub@gmail.com またはXの @kyonittaにDMをお送りください。
Bookpotters の訳書!
五十嵐真希さんがこちらの本を訳され、6月27日に刊行されました。淡い緑の表紙が美しい!
「韓国で詩壇からも、読者からも愛されている詩人アン・ドヒョンの40年にわたる詩業を一望できるよう、私が編訳した詩選集です。小さな取るに足らない存在を慈しみながら、人生の真髄、社会の本質をとらえた詩を書いています。『慈しむ』ことの大切さに気づかせてくれる詩人です」と五十嵐さん。
五十嵐さんとはソウル国際ブックフェアを一緒に回りました。本当にお世話になりました。



