みなさま、いかがお過ごしですか?
翻訳者は忙しくなればなるほど、人とも世間とも疎遠になりがち。ひとりでいることは得意だし楽しいのですが、「こんな仕事のやり方でいいんだろうか?」あるいは「ちょっと違った方向に舵をきってみたい」なんて思うこともある。そういうとき、私は自分がある種の昏睡状態に陥っていると感じます。自分を鼓舞してくれる何かが必要になるのです。
もちろん、この昏睡から目覚めさせてくれるのが、私にとっては書評講座なのですが、同人誌制作もセットではじめてみて、最近はいろいろなところから刺激を受けています。「読む」「訳す」「書く」「出す」が1つになっている活動から刺激を受けるんです。
その1つが、人気同人誌から商業誌へと変身を遂げた『かわいいウルフ』です。亜紀書房から出版されているので、書店でも見かけた方も多いのでは。先日、その制作者である小澤みゆきさんから体験談をうかがいまして、やる気にぽっと火がつきました。もちろん準備のために読ませていただきました。いやぁ〜、とてもおもしろい! これが同人誌だったなんて! と今更驚き感動している次第です。まだ読まれていない方や、ヴァージニア・ウルフを一度読んでみたいけど……と逡巡している方におすすめです。
最近訳書は値段が高いですし、こうした副読本や書評で作品の面白さをかじってから買いたいですよね。副読本なら、つくりによっては、縦横に読書の幅を広げることができますし。
もう1つ刺激を受けたのが、作家ロクサーヌ・ゲイのインタビューです。『バッド・フェミニスト』が有名ですよね。私も刊行当時読みました。アメリカにはEverandという「読む」「見る」「聞く」を合体させた新プラットフォームがあります。ロクサーヌはそこで最近、銃の所有についてのエッセイを出し、ちょっと話題です。内容をさくっと知るには、こちらの動画をどうぞ。考えさせられる内容です。
私が関心を持ったのは、このプラットフォームです。本のプラットフォームといえばいいのかな。いや、違うかな。そこには、小説もノンフィクションもあって、電子書籍、オーディオブック、ブログ、動画、ポッドキャストでその作品に触れることができます。ないのは紙の書籍。ここでオリジナル作品を出している著名作家もいます。たとえば、チャック・パラニュークやマーガレット・アットウッド。面白いのは、このプラットフォームの運営は出版社ではなく、IT企業だという点です。前述のインタビューでロクサーヌが語っていますが、出版社より資金力があるので、書き手に魅力的な報酬を払えているのだそう。それに、作家にはこういう「箱」はつくれませんよね。プログラマーじゃないから。ロクサーヌは従来の出版にある程度の疑問を抱き、いつも新しい方法を模索しているようです。ブック・クラブもやっています。
Everandはサブスク制です。無料お試し期間があるので試してみようと思います。
書評講座の感想お便り
翻訳者の安納令奈さんから、こんな感想をいただきました。
かねてから気になっていたBookPotters、次回がオースター追悼企画と知り、考える前に、飛びついていました。
zoom講座の前に配られる参加者全員の書評を読んでの採点、そして、(あの)豊崎由美さんが各書評にくださるコメントすべてが、勉強になりました。その作品を読みたいと思わせる書評を書くために配慮すること、避けるべきことを学び、原作へのリスペクトの大切さを再確認しました。コンパクトでも濃密な時間をありがとうございました。
気にはなっているけれど……と思案中の方は是非、次回にでも!秋の終わりにはまた開催するつもりです。Stay Tuned!